■第九話<夕食>
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100畳ほどの大広間に8名の人が集まっている。
その部屋の上座は薄い布で仕切りがされており、
奥には人影のようなものが見える。

その影を横に見るようにして4名ずつ向かい合うように座っている。
顔ぶれは老人や中年の男性、若い女性など様々で、その中に
嘉島の姿がある。

「門井が負傷したという報告を耳にしたが?」
老人が嘉島に向かい問いかける。
「はい、しかし大事には至らなかったようです。
負傷と伝わっておりますが、すでに術により
治療は完了しております。ご安心を。」
嘉島が答えると、隣にいる40前の女性が話を振る。
「門井さんほどの人がやられるなんて。
肋骨の骨折と頭を殴られたんですって?」
「ええ、どうやら複数の敵を相手にしたようです。
そして中々の使い手のようでもあります。
自分も一度手合わせをした時にそう感じました。
長野の時とは違い、雑魚ばかりではないようです。」
嘉島が女性の質問を本人に返すだけではなく、
全員に伝えるように話すと、老人が問いかける。
「やはりもう少し増員が必要か?」
すると嘉島は老人に視線を合わせる。
「はい、それはそうなのですが、まずは自分を早く現地へ戻して欲しいのですが。」
すると腕を組む老人。
「焦る気持ちも分かる。だが暫くお前はここ滞在しろという
郁葉様の命は守った方が良い。」
そう言われると、嘉島は上座の人影に向かって問いかける。

「郁葉様、何故自分を呼び戻し滞在を命じられたのですか?
まだ戻ってはならないのですか?」
その問いかけに答える様子は無く、しばらく沈黙が続く。
「郁葉様!?」
嘉島が再び問い詰めると、老人が立ち上がる。
「無礼だぞ、嘉島!」
その時である、嘉島の目の前に黄金色に輝く40cmほどの尖った石が
スッと現れる。
「これは?」
「土の雫の結晶だよ。それを握ってみろ。」
疑問系の嘉島に、40過ぎの中年男性が話しかける。
それに従うように右手で握り締める嘉島。
「ぐぉぉぉ!!」
突然苦しみ出し、すぐさま握り締めた手を離すと
しばらくうずくまったまま動けなくなってしまった。
その様子を見て、男性は話をする。
「お前は最近高度な呪術の為に土の雫を使いすぎだ。
土の雫は呪術の増強剤的な役割を果たすが、使いすぎると
術者に負担を掛ける。郁葉様はお前の体を心配して
福岡に戻されたんだ。だからお許しが出るまで
ここで休養をしろ。その様子だったら一週間後に出立も無理そうだがな。」
話が終わると、嘉島はようやく口を開けるようになる。
「ではせめて・・・至急、増援だけでも。」
そう言い残すと、気を失ってしまう嘉島。
「この者を医務室へ。」
老人がそう言うと、すぐさま外から人が入ってきて
嘉島を運び出していった。



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