■第七話<お武家様>
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白い壁に、白い机、
白いパソコンに白いマグカップ。
その白い部屋に赤毛の20代後半の女性が
電話をしている。

「ええ、計画は順調に進んでおります。ご安心を。」
そう一言伝えると、受話器を置く。
すると後方の金属製の扉がゆっくりと開き、一人の男が入ってくる。

「あら、早間君。どうしたのかしら?難しい顔をして。」
女性が振り返り話しかけると、早間は手元の資料を目の前に差し出す。
「これってどういうことですか?」
「そのままよ、君の質問に答えただけ。」
「しかしこれでは!」
食いつく早間に落ち着いた素振りで返す女性。
「このケースは想定内よ。それは君も知っているでしょう?
むしろ、いずれは起こる事で今回は少し早かっただけ。
だけど問題はないわ。逆に問題があったらこの計画自体無理だったということね。
リスクのある実験として扱ってもらえると助かるわ。」

「ですが!?」
「それより少し厄介なことになったわ。」
食いつく早間に構わず、女性は資料を差し出す。そして目を通す早間。
「・・・まずいですね。」
深く考え込むように早間がつぶやくと、女性は呆れた顔になり答える。
「貴方達が私をここに缶詰にするからこうなるのよ。
これじゃ監督不行き届きになっても仕方がないわね。」
「冗談のつもりですか?」
「冗談じゃないわよ。ちゃんと毎日家に帰してくれればこんなことは起きなかったわね。
これを期に、どうにかして欲しいものだわ。貴方からも上にいってくれる?」
すると早間は首を小さく振ってから、女性に視線を合わせる。
「無理ですよ。自分はこの部署に来てから日が浅いんですよ?
それより、どう対処なさるつもりです?」
すると肘を机について、ため息を一つつく女性。
「自分たちのまいた不祥事を私に押し付けるつもり?」
目を閉じて呆れた口調で返すと、早間は困った顔になる。
「自分たちのせいになるわけですか?」
「そりゃそうよ、さっきも言ったでしょう?こんな状態だと
監督できるわけないでしょう?」
そう言われると早間は少し考え女性に話しかける。

「まあ、その件については考慮しましょう。それでこの件ですが・・・」
すると話の途中に女性は早間に資料を新たに渡す。
「この対応が一番良いと思うわ。」
目を通す早間。そしてため息を一つつく。
「そうですね、もう村雲と言い張った方が一番無難ですね。
それ以上のことは探らないでしょうし。
下手に今後、外出を禁止したところでも
いずれは突き止められそうですしね。
分かりました、必要なところには私から伝えておきます。」

すると女性はため息を付く。
「結局家には帰してもらえないわけね。」
「なるべく博士の意向は尊重するように上には言っておきますよ。」
「期待せずに待っているわ。」
そう言うと、博士と呼ばれた女性は白いマグカップに入っているコーヒーを口に運んだ。



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