■第六話<仮面>
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『落ち着いたのに、何も感じない。』
自室で仰向けになり、上に掲げた右手を見つめながら
琴和は考え事をしていた。

昨日、黒い異型の犬を倒してからは何事も無く
蘭子を家まで送り届け、自分も無事に家に帰った。
自分の家までは、櫻子がついてきてくれた。
もし帰り道で何かあった時、蘭子に知らせることができるからだ。

琴和は家に着くと、櫻子にお礼を言って別れ、
血のついた服を洗濯機に入れシャワーを浴びる。
すると疲れがこみ上げてきて、
布団の上に転がったと思ったら、気がつくと朝になっていた。


琴和は昨夜のことを何度も思い返していた。
それは犬に止めを刺した場面だ。
しかしそのリピートはショックのあまりに
頭から離れないわけではなく、わざと思い返している状態だった。
何故なら自分自身に疑問が生じたからだ。

思えば、四つ目の犬、翼の大きな鳥、そして昨夜の白い犬、
全て化け物とはいえ、止めを刺した時は
気持ち悪さや罪悪感でいっぱいだったのに、
昨夜の黒い犬を殺したときは何も感じなくなっていた。
当時は興奮状態だったからと考えたが、
今、落ち着いた状態でも何も感じなくなっていた。
それどころか、罪悪感を感じた前の3件に関しても、
今となっては『仕方が無いこと』という
軽い気持ちに変化していることにも気づいた。

『慣れ・・・にしては極端すぎるよな。』
いくら考えても分からず、思い返しても何も感じないまま
時間が過ぎていった。そして次第にその行為も
どうでも良くなってきた。
すると、蘭子の事が心配になってくる。

『そうだ、昨日は落ち込んでいたな。
・・・少し様子を見に行くか。』

すると琴和は荷物を作り始め、外出の準備を始めた。



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