■第十八話<入局>
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「別に良いんじゃない?」
右手で頬杖をつき、左手で書類を見ながら
話しかける麗華。
その様子を目の前で直立しながら見ているのは甲子郎である。
現在は局長室で会話をする二人。
朝になり、琴和と蘭子から禦に入りたいと申し出を受けた甲子郎が
戸惑いながらも麗華に相談をしに来ているところである。

「問題は無いと?」
「ええ、そうよ。
むしろ好都合じゃない?
このままずっと保護しっぱなしという訳にもいかないし、
今は人手不足だし。
そんな中、彼らが禦に入ってくれるなら助かるわ。
・・・ヴァークスの能力、今現在までに受けている報告からすると
とても魅力的よ。」

そう言うと手元で見ていた琴和と蘭子の資料から、
甲子郎に目を移す麗華。
「そして何より、私の直属の部下にすることにより
他からの手出しを防ぐ事が出来る。
例えそれが村雲であっても、禦の内部であっても。」
「局長より上から手出しをして来たらどうするのです?」
「その時はその時よ。
でも、今までに一局員に対して上から何かを言ってきたなんて
例がほとんど無いわ。」

「そのほとんど無い事が、自分に振りかかったわけですが?」
「・・・そうね、君に対するあの変な指令は妙だったわね。
でも大丈夫よ、彼らに対しての不審な命令は無効にするわ。」
「そんな事、出来るのですか?」
「まあ、どうにかなると思うわよ。
任せなさい。
正直なところ、ヴァークスの能力は危険よ。
変なところで利用させる訳にはいかない。」

「ええ、その通りです。」
そう甲子郎がうなずくと、麗華は両手を組み
甲子郎を見つめる。
「彼らは瀬戸君の下につけるわ。」
「自分の・・・ですか?」
「そうよ、その方が守り易いでしょう?」
「そうですね。その方が二人を守り易いですね。」

甲子郎の答えに小さくため息をつく麗華。
「守るのは君自身の事もよ。」
「え?」
「カザーバ、特に嘉島とはこれから何度もやり合うと考えられるわ。
いくら瀬戸君でも、どうなるか分からない。
今はまだヴァークスの彼らの力が何処までかは未知数だけど、
下手な局員よりはずっと能力が高いと考えられるわ。
彼らの力を借りて、生き残りなさい。」

そう言われると黙ってしまう甲子郎。
「まあもちろん、二人の事も守ってあげてね。
まだ話していないけど、良い子たちなんでしょ?」
「ええ、そうですね。」
「だったら尚更よ。瀬戸君に何かあったら
彼らはきっと悲しむわ。
彼らを守って、自分も守る。良いわね?」

「分かりましたよ。」
その答えが返ってくると微笑む麗華。
その仕草に少し照れくささを感じると、
紛らわすかのように質問をする甲子郎。

「ところで、村雲への調査はどうなっていますか?
他にもヴァークスがいるのでしょう?」
「やっぱり気になるかしら?」
「当然です。」
「正直なところ、進みが良くないわね。」
そう言って一部の書類を甲子郎に渡す。

「これは?」
資料を受け取ると、内容を見ずに質問をする甲子郎。
すると麗華は説明を始める。
「他のヴァークスは行方不明と言って
禦への受け渡しを拒否。
そして施設は破壊とあるわ。」
「そんなバカな!?」
「そうね、そう感じるのも無理ないわ。
でも実際に昨夜、村雲の施設内で爆発が起きているの。
研究棟が一棟倒壊よ。」
「何ですって?!
一体誰が!?」
「二枚目を見て。
犯人の資料が掲載されているわ。」

「この男がですか?」
「ヴァークスの研究施設の所長だったとの事よ。
何でもその人が力を得る為に勝手にやっていて、
ばれそうになったから施設ごと破壊し、自害したとの事。
村雲は知らぬ存ぜぬだそうよ。」

「・・・米倉?」
「そう、米倉さん。君なら気が付いたかしら?」
「まさか!?」
慌てる表情の甲子郎を見ると麗華は小さくうなずく。
「そう、16年前の事件で彼は正義を貫き、
英雄的な活躍を見せたわ。
君もそれは知っているでしょう?」
小さくうなずく甲子郎。
「その彼が今回のような事をするとは到底考え辛い。
きっと裏があるわね。」

「・・・まさか村雲にハメられ、全責任を負わされ
殺された・・・?」
「さあ。
証拠が無いから憶測の域は抜けられないわ。」
その言葉を聞くと、考え込む甲子郎。
「他に情報は?」
「そうね、その資料に書いている事以外は無いわ。
あとは、桐島博士の話しくらいかしらね。」
「博士はこの事を御存じで?」
「いえ、言っていないわ。
きっとショックを受けるでしょうね。
でも、彼女の話を更に聞かないと調査は進まなさそうよ。」
「・・・早間はどうしますか?」
「そうね、彼からも話を聞く必要があるかもしれない。
少なくとも米倉さんの事は知っているでしょう。」

そう言われると再び考え込む甲子郎。
「まあ一筋縄ではいかない事は想像が出来ていたわ。
何とか道を切り開ければ良いけど。
ヴァークスの件に関しては君が好きなように調査して良い事にするわね。
丁度ヴァークスの当人たちも下についていることだしね。」
「ありがとうございます。」
「ただ、しばらくは彼らの指導もしっかりするのよ?」
「了解。」
そう言うと甲子郎は振り返り、部屋を後にした。



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