■第十七話<ネクストステップ>
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「お武家様の調査が、まさかの展開になったわね。」
薄暗い局長室で会話をする麗華と甲子郎。
彼女の手には書類があり、それを元に話をしている。

「素早い対応、ありがとうございました。
・・・まぁ、厄介事を持ちこんだ形でしょうが。」
そう甲子郎が探るように言うと、麗華は少し考える素振りを見せる。

「・・・そうね。
確かに厄介事だけど、悪くはないわ。
まさか村雲が秘密裏にこんな事をしていたなんてね。
支部長も驚いていたわ。」

「それで、何か上から御達しはありましたか?」
何気なく尋ねる甲子郎。
理由は元老院の事が気になるからだった。
そして麗華は甲子郎の心の内を知らずに答える。
「いえ、特に無いわ。
一先ずは私の判断で動いて良い感じね。」

『なるほど、やはり元老院でも下手には動けないということか。』
間者とされる元老院がすぐ手を打ってこない事から
そう感じ取る甲子郎。
麗華に対してはまだ、研究所で聞いた話を告げてはいない状態で、
甲子郎は、彼女と話をしていた。
現在は、午前10:30。
地下室での一件から一夜が明けており、
今は全員が禦に保護をされ、施設内に居る状態である。

「それで、これからはどうしますか?」
甲子郎が今後の方針を聞くと、
麗華は少し考えた後に口を開く。

「そうね、とりあえずは瀬戸君の申し出通りで良いわ。
桐島博士と三人のヴァークスを私の監視下に置いて保護をする。
そして研究施設にある機材の確保をする。
ただ、あの場所に置いておく事も出来ないから
禦内部の施設に引っ越しをさせているわ。
とりあえずはちょっと様子見ね。

それにしても、まさか民間人が利用する施設の下にあんなのを作っているなんてね。」
「まぁ、禦に対して秘密裏にするのであれば
そうするのがベストかもしれませんね。
村雲の施設内では見つかってしまう可能性はありますから。」
そう甲子郎が答えると、麗華はため息をつく。
「隠す気満々だったって事ね。」

「そうですね、悪い奴らだ。
ところで村雲に対してはどうするのですか?」
「もちろんヴァークスの研究について調べさせてもらうわ。
桐島博士の話からすると、どうやら彼女が把握できないくらいに
研究の規模が広がっているらしいじゃない?
現に桐島博士の知らないところでヴァークスが作られているようだし。」

「ああ、禦で保護した後の取り調べで分かった事ですね。
そういえば早間もそんな事を言っていましたね。」
早間の事が話題に出ると、麗華は天井を見上げる。

「早間君か・・・彼、今はどんな気分かしらね?」
そう聞くとニヤッとする甲子郎。
「さぁ、あいつの場合は保護ではなく逮捕ですからね。
今頃監視室の中で半べそでもかいているんじゃないですか?」
そう言うと、苦笑いの麗華。
「人ごとだと思って意地悪ね。
本人は逃げるつもりはないと言っているけど、
しばらくは今のままが良さそうね。
博士とは違って、もともと彼は村雲の特務員でしょう。
特務員といえばそれなりの地位よ。
ただでも村雲が悪い事をしているのに
そんな特別な立場だった人が、
あっさりと禦内部に入り込むのも少し不自然と思われるかもしれないからね。」

うなずく甲子郎。
「そうですね。
しばらくはこのままで良いかと。」

「・・・小田原さんと楠木さんの様子はどうかしら?」
話が落ち着きそうなところで、話題を変える麗華。

「そうですね、落ち着いているようです。
本心はどうか分かりませんが・・・。
今は桐島博士に検診をしてもらっている最中です。」
「そう。
ありがとう、下がって良いわ。
しばらくは彼らの事、よろしくね。
・・・村雲が何かをしかねないから。」
「了解。」

意味ありげな事を麗華が言うと、
それを理解したように甲子郎は返事をする。
そして薄暗い局長室を立ち去る為に振りかえり
ドア付近まで進むが、急に立ち止まる。

「そうだ、たまには今度
ゆっくり食事でもどうですか?
桐島博士や琴和達を紹介しますよ。」
突然甲子郎がそう言うと、麗華は小さく微笑む。

「・・・それは良いわね。
時間を作るわ。」
その返事を聞くとニヤッとして甲子郎は部屋を出て行った。



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