■第十二話<離れた地での約束>
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多くの自然に囲まれた村から一台の黒いワンボックスカーが
走り去っていく。
車内には数人の男がおり、その中に嘉島の姿があった。

「目的地に着くまでは我々が警備をいたします。
長旅になりますので、どうか休んでください。」
黒尽くめでサングラスをした男がそう伝えると、首を振る嘉島。

「いや、暫くは警戒しなくて良いだろう。そんなに力まなくて良い。
大阪に近づく時と、名古屋を通過した辺りに集中してくれ。
その後は自分で何とかする。」
窓の外を見る嘉島。

「長い滞在になったな。」
辺りに広がる景色は、春に変わり行く森の風景で、
透き通った風の色が見える気がする。
その中に車の排気ガスを混ぜることは少し罪悪感を感じさせるくらいだった。
新しい植物の芽が顔を出し始め、枯れていた木々も
再び華やかになろうとしている。
こういう季節の移り変わりなどには今まで目をやることの無かった嘉島だったが、
この数週間の休みは彼にそれを気が付かせる良い時間だった。

「この感性を保つことが幸せなのかもしれないな。」
「と、いいますと?」
「毎日、追われるように過ごすのではなく、
徐々に変わり行く自然のように、ゆるやかに生きたいものだ。」

嘉島が不意にらしくないことを言うと、護衛の男は困惑する。
「聞き流せ。冗談だ。
今まで血に染まり、戦い続けたこの俺が
引き返せるはずがない。」

そう言うと広げた右手を見つめ失笑する。
「・・・ずいぶんと汚い手だな。」
何かを見透かしたようなその瞳は、どこか寂しげなものを見ているようでもあった。



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